電動化時代にカブはどうなる?—ホンダが目指す「EVカブ」の挑戦と、変わらないカブの使命

世界は、脱炭素社会の実現に向け、自動車から二輪車に至るまで、急速に電動化(EV化)へと舵を切っています。この大きな時代の波は、ホンダの象徴であり、世界で累計1億台以上を販売したスーパーカブにも確実に押し寄せています。
ホンダは既に、ビジネス用途やパーソナル用途を想定した「EVカブ」のコンセプトモデルを発表し、その開発を進めています。しかし、カブが半世紀以上にわたって築き上げてきた「壊れない耐久性」「驚異的な低燃費」「誰でも乗れる簡便さ」といった普遍的な価値は、電気モーターとバッテリーという新しい技術で、本当に継承できるのでしょうか?
本記事では、電動化時代におけるスーパーカブの挑戦に焦点を当てます。EVカブの開発の現状、ガソリンカブの持つ本質的な魅力をEVで再現するための課題、そしてカブが未来のモビリティとして果たすべき変わらない使命について深く考察します。
このページの目次
電動化の波と「EVカブ」の誕生
ホンダは、2040年までに二輪車と四輪車全てを電動化するという目標を掲げています。その中で、カブの電動化は、ホンダの電動化戦略の成否を握る重要な鍵となっています。
1-1. ビジネスモデルからのEV化の推進
カブが最も多く使われているのは、郵便局や新聞配達などのビジネス用途です。企業や自治体は、環境負荷低減目標達成のため、業務用車両のEV化を強力に推進しています。ホンダは、この業務用ニーズに応える形で、既に「ベンリィ e:」などの電動スクーターを展開していますが、「EVカブ」は、その延長線上にある重要なモデルとなります。
業務用カブは走行距離が明確で充電インフラも確保しやすいため、パーソナル用途に先行してEV化が進むと見られています。
1-2. 交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」の可能性
EVカブの実現に不可欠な技術が、ホンダが開発を進める交換式バッテリー(Honda Mobile Power Pack e: / MPP)です。航続距離と充電時間の問題は、二輪車のEV化における最大の課題ですが、MPPは、充電済みのバッテリーと素早く交換することで、この問題を解決することを目指しています。
- ビジネス用途の利便性: 配達業務などで長時間走行する際も、バッテリーをステーションで交換するだけで済み、充電待ちの時間を大幅に短縮できます。
- インフラ共有: この交換式バッテリーは、他のホンダ製二輪・四輪や汎用製品とも共有される予定であり、世界的なモビリティのインフラを構築する狙いがあります。
EVカブが乗り越えるべき「カブの壁」
ガソリンエンジンカブが持つ圧倒的な強み、すなわち「カブらしさ」をEVで再現することは容易ではありません。EVカブは、以下の3つの大きな「壁」を乗り越える必要があります。
2-1. 【耐久性・整備性】「壊れない」という神話の継承
ガソリンカブは、シンプルな機械構造と、どこでも修理できる整備性の高さによって、「壊れない」神話を作り上げました。EVカブは、バッテリーとモーターという複雑な電子部品で構成されます。特に過酷な途上国市場において、「修理のしやすさ」と「部品の供給体制」を維持できるかが課題となります。
EVカブは、ガソリンカブのようなオイル交換は不要になりますが、バッテリーの劣化や電子制御の故障時の対応が、今後の耐久性の基準となるでしょう。
2-2. 【経済性】「圧倒的な低価格」の維持
カブの成功の根源は、誰もが手の届く「圧倒的な低価格」にあります。しかし、リチウムイオンバッテリーは製造コストが高く、現在のEVバイクは同クラスのガソリン車よりも価格が高くなる傾向があります。 [Equation for total cost of ownership (TCO) analysis] カブの最大の市場である途上国の人々が購入できる価格帯を維持できるかどうかが、EVカブの普及のカギとなります。
2-3. 【愛着】「トコトコ」という乗り味と排気音の欠如
カブの魅力は、その独特の排気音(トコトコ音)と、自動遠心クラッチが生む独特な運転感覚にあります。EVカブは当然ながら静音性が高く、排気音は失われます。また、モーター駆動は滑らかすぎて、ガソリンカブ特有の「機械を操作している」という感覚が薄れる可能性があります。コアなカブファンにとって、この「感性の部分」の欠如は、EVカブを受け入れる上での心理的な壁となるかもしれません。
カブが未来で果たすべき「変わらない使命」
たとえ動力源がガソリンから電気に変わっても、スーパーカブが果たすべき「使命」は不変です。それは、創業当時から変わらないカブの「普遍的な価値」にあります。
3-1. 人々の生活を「支える足」としての役割
世界の多くの地域で、カブは依然として家族の移動、作物の運搬、医療の提供といった生活の根幹を担っています。EVカブになっても、この「生活のインフラ」としての役割は変わりません。低速域での高いトルク、堅牢な積載能力、そして悪路に強い基本設計は、電動化されても絶対に譲れない要素です。
3-2. 環境負荷ゼロの「最後のワンマイル」を担う
都市部における配送や通勤において、カブは「最後のワンマイル」の移動手段として最適です。EVカブは、ゼロエミッションであるため、都市の空気質改善に直接貢献できます。静粛性の高さは、早朝や深夜の配達業務における騒音問題の解決にもつながります。
3-3. 「誰でも乗れる」というアクセシビリティの継承
カブの成功は、難しい操作が不要なステップスルー構造と自動遠心クラッチにありました。EVカブは、クラッチ操作が完全に不要になることで、さらに操作が簡単になります。この「誰もが安全で簡単に利用できるモビリティ」というアクセシビリティの追求こそが、電動化時代におけるカブの最大の使命です。
まとめ:EVカブは「新しい愛着」を生み出せるか
スーパーカブの電動化は、単なる技術の置き換えではなく、そのアイデンティティをかけたホンダの壮大な挑戦です。EVカブが、ガソリンカブの持つ「耐久性」「経済性」「簡便さ」といった実用的な価値を継承できれば、市場での成功は間違いないでしょう。
そして、コアなファンが求める「愛着」や「乗り味」は、静かなモーター音や、交換式バッテリーという新しいシステムを通じて、どのように新しい時代の「愛着の哲学」へと昇華されるのか。世界一のバイクの未来は、その答えにかかっています。





